子ども達が健全に成長していける社会を目指して

設立趣旨書

1 趣旨

2014年のOECD (経済協力開発機構) の報告によると、日本の子どもの貧困率は、先進国34か国の中で10番目に高い数値でした。

「子どもの貧困」の話題が出ると、そもそもこれだけ豊かな日本に「貧困状況にある子ども」なんているのかという声を聞くことがあります。

「貧困」には2つの定義があり、生きるために最低限必要となる食料・生活必需品を購入するためのお金が不足している家計の状況を示す「絶対的貧困」と各世帯の所得の平均値の半分を下回っている人の割合、つまりその国の所得格差を表す「相対的貧困」で、日本が抱えている問題は後者の意味の「貧困」です。

平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす割合を「子どもの相対的貧困率」といい、厚生労働省が2014年にまとめた報告書によると、1990年代半ば頃からおおむね上昇傾向にあり、2012 (平成24) 年には16.3%と実に日本の子どもの約6人に1人が貧困状態にあるのです。しかもそのうち、大人が1人の世帯が54.6% (全国では約300万人) と、大人が2人以上いる世帯に比べて非常に高い水準となっています。(内閣府「平成27年度版子ども・若者白書」)

その背景には非正規雇用のひとり親家庭の増加が考えられます。近年、離婚やシングルマザーの増加が顕著になっており、それに伴いひとり親家庭が増えてきています。厚生労働省が平成27年に行った「ひとり親家庭等の現状について」によると、この25年で母子世帯は1.5倍、父子世帯は1.3倍に増加しており、ひとり親家庭の増加に比例して「子どもの貧困率」も高くなっているのです。

では、なぜひとり親家庭が増えると「子どもの貧困率」が高くなるのでしょうか。1つにはひとり親家庭の就業状況は80%以上であるものの、母子世帯ではその57%が非正規雇用であり不安定な就労状況に置かれていることが考えられます。また、平均年間就労収入も非正規雇用の場合では181万円にとどまり、いくつもの仕事を掛け持ちしてやっと生活に必要な収入を得ている人も多いのです。

このようなひとり親家庭の経済状況は、子どもに対して様々な悪影響を及ぼします。今日では親が働く必要があるので祖父母と同居するという家庭はまれで、ひとり親と子どもだけの核家族が中心となるため、夕食を子どもだけでとる「孤食」も増えてきています。経済的な理由から満足に食事がとれない、コンビニ弁当や菓子パン、スナック菓子、インスタント食品しか口にしない子どもがいるのが実情です。

そのような貧しい食事や「孤食」を長い間続けていると、いつも自分の食べたいものや食べやすいものしかとらなくなり、成長期に必要な栄養のバランスが崩れます。食事がきちんととれないと集中力が低下したり、イライラや怒りっぽくなったりします。1人だけでの食事は好き嫌いや食事のマナーが悪くても注意してくれる人はおらず、家族での会話をする場を失うことはコミュニケーション能力や協調性などの社会性が十分に育たなくなる傾向があり、子どもの心の成長にも暗い影を落とすことになります。

一緒に食事を囲んで団欒をすることは子どもの中に強い信頼感を育むとともに、自分に声をかけてくれ、自分のことを気にかけてくれる人がいるという思いは、子どもにとって明日を生きる原動力となり子どもの心を豊かに成長させてくれることになるのです。

また、貧困家庭の子ども達は、親の仕事の関係で夜の早い時間に規則正しく食事をすることが難しく、その結果勉学に力が入らない傾向が強いと言われます。親の収入が少ないと十分な教育費を捻出することができず、さらに仕事に忙しい親は子どもに「宿題は終わったの?」などと声をかける余裕もなくなってしまいます。このような条件下では子どもの学習や進学の意欲がわかないといった研究が報告されています。

子どもの正答率と家庭の世帯年収との関係に関して、世帯年収が低い子どもの方が、正答率が低い傾向がみられました。(文部省:お茶の水女子大学委託研究より)学力だけでなく、高校卒業後の進路と家庭の経済状況にも相関関係が見られます
(東京大学大学院教育学研究科 大学経営・政策研究センター「高校生の進路追跡調査第1次報告書」(2007年9月) )。

貧困家庭の場合、塾や習い事に通わせることも自分の部屋など勉強に集中できる環境を与えることも難しく、大学等への進学も経済的な理由から躊躇することが多いのです。このように家庭の経済力によって教育の機会が左右されて、「あきらめ感」を持つ子どもも少なくなく、その結果進学や就職に影響が出てきて、将来的に低賃金の仕事につかざるを得なくなることが多くなるようです。

「あきらめ感」は子どもたちの新しい能力の発見も鈍らせます。職業選択の幅が限られ、親に続いて子もまた貧困となる「貧困の連鎖」が生じる傾向があります。OECDは「人生のスタートから格差が生まれている」と指摘をしています。21世紀を担う若者の間に、すでに「夢の格差」社会が生じていることは、まさに国家の危機といっても過言ではありません。

「子どもの貧困」を放置することは将来社会の歪をますます大きくし、日本の未来を暗く不安定なものにしてしまう可能性があります。「子どもの貧困」をこのまま放置すれば、将来、42兆9000億円のGDPが失われ、さらに税収の減少や生活保護などの社会保障費用の増加が15兆9000億円も発生してしまう試算もあります。貧困は国の財政にも大きな影響がある問題なのです。
(小林庸平「貧困対策の費用対効果」日経ビジネス2017年1月16日号)

このような現状をどうしたら変えていくことが出来るのでしょうか。何か貧困家庭の子ども達が夢と希望を持って生活できるようになる方法はあるのでしょうか。

私たちはそのためには教育格差の是正が欠かせないと思っています。経済的な理由やその他家庭の事情によって学習に適する場所がなくて家庭での学習が困難であったり、大人が深夜までそばにいないなどの理由によって学習習慣が身についていない子どもたちへの支援が必要です。「貧困の連鎖」に入ってしまうと、自分ひとりだけの力ではそこから抜け出すことは容易ではありません。多くの大人の協力が必要なのです。

継続的に誰かと一緒に食事をするという心の安定と、落ち着いた場で学習指導や進路相談を受けたりできることが子ども達に希望を持たせ、子どもたちの心身の成長に役立つと考えます。子ども達が自由に自分の将来のビジョンを描き、その実現に向けて充実した生活ができるように経済的に恵まれない子ども達を地域を挙げて応援していくことが重要であると考えます。

2 法人として行おうとする活動

  1. 経済的に恵まれない子ども達に栄養のある食事を継続的に無償で提供し、誰かと一緒に食事をとる時間を確保していきます。(子ども食堂)
  2. 上級の学校に進学して「貧困の連鎖」を断ち切るべく、進学を可能とする学習の場を確保し、継続的な学習習慣が身に付くよう支援し、学習指導や進路相談等の支援をします。(寺子屋)
  3. 子ども食堂及び寺子屋の機能を合わせた「寺子屋食堂」の運営にかかる費用は、市の補助、団体の寄付 (ロータリークラブ等)、個人の寄付などで賄います。

3 活動が不特定かつ多数の者の利益の増進 (公益) に寄与すること

  1. 平成29年12月より3か所で60名を対象に週2日ずつ寺子屋食堂を開始する予定であり、これにより経済的に恵まれない家庭の子ども達が心豊かで充実した生活づくりを目指し、子ども達の健全な育成を図ることが可能となります。
  2. 対象とする子ども達に対する指導経験が豊富な中学高校の定年退職教員のボランティアによる効果的な学習及び進路指導を行うとともに、子ども達の職業能力の開発も可能となります。将来的には経済的困難を乗り越えるために日本人の平均以上の生活を可能にする雇用の機会の拡充が実現できる可能性が高くなります
  3. 上記1、2により「あきらめ感」による高校中退者が減少し、自分達の将来にもっと希望を持ち、未来を明るく考えられる子ども達が増えることになり、子どもの健全な育成が図られるようになります。
  4. 子ども達が「負の連鎖」を断ち切っていくことで将来の所得が増え、福祉の増進や地域の経済活動の活性化が図られるようになります。

4 法人化を目指す理由

このような活動を行うためには地域の行政機関や他の関連団体との連携が重要であると考えています。しかし、貧困対策の専門家ではなく「地域の一般の人達」に力になってもらうことが支援を受ける子ども達、そしてその子供を守る親にとってもさらに大切なことであると考えます。

ともすれば孤立してしまいがちなそのような家庭が「貧困家庭」のレッテルを貼られるのではなく、地域の人々とつながりを持ち、誰もが支援者となって多くの地域の人々に参画の輪を広げるような場にするには、社会的に認められた組織で活動する必要があると考えております。法人として契約は法人名で行い、積極的な情報開示を行うなど、対外的にも法人の信用度を向上させることで支援者がより安心して寄付や事業への参画等がしやすくなり、設立目的である「経済的に恵まれない子ども達を支援する」という社会貢献事業を行うために特定非営利活動法人化を目指しました。

子ども達が安心して通うことのできる場を作り、全ての子ども達がそれぞれの夢と希望をもって心身ともに健全に成長していける社会を実現していくことを目標としています。

2017年4月23日

特定非営利活動法人川崎寺子屋食堂
設立代表者 竹岸 章